
宇宙開発の新たな潮流の中で、光・レーザー技術は探査、観測、通信、軌道上サービスを支える基盤技術として重要性が増しています。
本セミナーでは「宇宙×光 ―宇宙ビジネスを支える光・レーザー技術―」をテーマに、アルテミス計画が拓く月面探査と国際連携、月極域における水資源探査、JAXAにおける地球観測用ライダー、光衛星間通信、さらにレーザーによる宇宙デブリ除去などを取り上げ、宇宙利用の拡大を支えるフォトニクスの最前線と、今後の宇宙ビジネスへの展開可能性を紹介いたします。
開催概要
- 開催日時:2026年7月16日(木)10:30~16:35
- 会場:光・レーザー関西2026内 特設会場(マイドームおおさか 1F)
- 参加料:無料(登録制。参加には別途展示会の来場登録が必要です)
10:30-11:05
アルテミス計画が拓く月面探査と国際連携
宇宙航空研究開発機構 国際宇宙探査センター
牧野 克省 氏
日本は国際有人宇宙探査プログラム(米国主導のアルテミス計画)への参画を2019年に正式決定、2020年より参画しています。この計画では、月面有人拠点建設や月資源利用等の月面開発を通して有人火星探査も見据えた「持続的な宇宙探査活動の確立」を目指しています。
今年3月、NASAは月面南極域に人が継続的に滞在できる拠点を2032年以降に建設するというMoon Base構想を発表、2028年にはアポロ17号以来の約半世紀ぶりとなる有人月面着陸ミッションを予定しています。人類は月面で継続的に滞在する時代へと歴史的節目を迎えようとしています。
JAXAは、日本として国際宇宙探査を進める方向性の案を「日本の国際宇宙探査シナリオ案2025」として纏めており、2040年代に月面南極域に40 人程度が常時滞在し科学・探査活動を行うシナリオ案とともに、その実現に必要な多岐にわたる技術領域の技術開発ロードマップを示しています。
本講演では、アルテミス計画による有人月面探査の概要や国際宇宙探査における日本の貢献、国際連携を踏まえた月圏インフラ構築における日本の戦略的取り組みについて紹介します。
11:05-11:40
月極域における水資源探査/揮発性物質同位体分析 ~月の沙漠に水をもとめて~
大阪大学
山中 千博 氏
「乾燥しきった月」という解釈は、近年大きく変わった。月の極域にはかなりの水氷があると考えられ、資源開発と惑星科学的な関心の両面から国際的な探査競争が開始されている。月面に有人基地をつくり、火星への前進基地にしようとする米国主導のALTEMIS計画はすでに開始されている。JAXA/ISRO(インド宇宙局)による月極域探査(LUPEX)計画では、月南極域における水資源探査を主たる目的とする。その概要は、月面移動用のローバー搭載の地中レーダーや赤外線カメラ/中性子分光などを用いて水分濃厚域を探索すること、次に、その地点のレゴリスを掘削して水分含有試料を入手し、その場で水資源分析計(Resource Investigation Water Analyzer:REIWA)システムに導入し、分析を行うというものである。REIWAは、試料ハンドリング部分、ISRO試料分析部(ISAP:ラマン分光など)および、試料から水分を気化させる熱重量計測部(LTGA)があり、LTGAでは、試料中の揮発物質量/揮発温度の情報が得られ、その後段に、TOFMASS分析部(TRITON)、および微量水分計測部(ADORE)が配置される予定である。ADOREは”Aquatic Detector using Optical REsonance” を略した呼称で、その実は、Cavity Ringdown分光(CRDS)法を用いたレーザー微量水分計であり、水分子の吸収スペクトルを直接計測することで、水分定量と同位体測定を行う計画である。講演では、月面の特異的な環境に触れつつ、月極域における探査手法について述べる予定である。
1985年大阪大学工学部卒
1990年大阪大学 大学院工学研究科博士後期課程修了(電磁エネルギー工学)工学博士
1990年~大阪大学理学部物理学学科・同物理学専攻を経て、同宇宙地球科学科、大学院宇宙地球科学専攻教員、現在に至る

13:30-14:05
JAXAにおける地球観測用ライダーの開発
宇宙航空研究開発機構
片山 晴善 氏
衛星搭載のライダーは、宇宙からの森林バイオマスの高精度推定や高精度な地形情報取得等に貢献する技術であり、今後の地球観測においても欠かせない技術とされている。JAXAでは、日本初のレーザーによる森林観測ミッションであるISS搭載ライダー実証(MOLI)及び、高さ方向の高精度観測を可能とする高度計ライダー衛星の開発を行っている。
本講演では、衛星搭載ライダーの基礎的な原理や地球観測への応用を解説するとともに、MOLIおよび高度計ライダー衛星の概要を紹介する。
2003年、大阪大学院理学研究科宇宙地球科学専攻博士後期課程修了(理学博士)。同年、宇宙開発事業団 宇宙航空特別研究員、2006年、宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センターを経て、2016 年、先進光学衛星プロジェクトチーム。現在は、衛星利用運用センターにて将来の地球観測衛星やセンサの開発に関わる。

14:05-14:40
光衛星間通信 – 宇宙の高速データ通信網構築へのチャレンジ –
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 JDRSプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ
山川 史郎 氏
今後の宇宙通信のキー技術であり、LEO通信コンステレーションの観点からも注目される光宇宙通信について、その技術的キーポイントと動向を概説する。
光宇宙通信は、その広帯域性や干渉性の低さや高い耐妨害性・秘匿性により、宇宙開発の初期から有望な技術として注目されてきたが、その技術的難易度の高さから実現は容易ではなく、かつその広帯域性を必要とする差し迫ったニーズもなかった。
近年、地球観測衛星に関するセンサの高分解能化やそもそも機数の増大により、宇宙で発生するデータ(いわゆる「スペース・データ」)が膨大となり、それらをユーザに伝える通信手段の大幅な増強が必要になった。加えて、従来光ファイバ通信が主力であった大容量通信についても、無線技術の進化、そして何よりもLEO通信コンステレーションという新たなブームにより大容量通信手段が必須になり、光宇宙通信が改めて脚光を浴びることとなった。
合わせて本発表では、JAXAが開発し、2024年に先進レーダ衛星「だいち4号」との光データ中継実証に成功した光データ中継衛星システム(LUCAS)の軌道上実証結果も紹介する。これにより、より具体的に光宇宙通信の有用性・技術的レベルの高さを実感いただけると考える。
1992年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業、1997年同大学大学院理工学研究科博士課程単位取得退学。同年、宇宙開発事業団(現 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA))に入社。現在に至る。
人工衛星系の衛星システム、ミッション機器および光衛星間通信技術の研究開発に従事。2015年以来、光データ中継衛星および光データ中継システムを開発するJDRSプロジェクトに参加、現在同プロジェクトチームのプロジェクトマネージャ。(一財)テレコム先端技術研究支援センター(SCAT) 2025年度会長賞受賞。博士(工学)。

14:50-15:25
宇宙×レーザー技術が拓く持続的な宇宙環境利用:宇宙状況監視から宇宙交通管理へ
(株)パワーレーザー 取締役 共同創業者
上野 宗孝 氏
宇宙利用は、通信・地球観測・測位などを支える社会基盤として急速に拡大しています。一方で、低軌道空間は多数の衛星が限られた軌道空間を利用するようになり、衝突リスクやデブリの連鎖的発生による宇宙利用の持続性への懸念が高まっています。今後、コンステレーション衛星を含む多様な宇宙ミッションを安全に運用するためには、軌道上物体の状況を高精度に把握し、衝突回避や衛星廃棄を含む運用判断を支える宇宙状況把握、さらには宇宙交通管理の重要性が高まりつつあります。
株式会社パワーレーザーは、大阪大学レーザー科学研究所で培われた高出力・高精度レーザー技術の社会実装を目指し、2024年に設立されました。レーザー技術を軌道上物体の精密計測に応用することで、従来よりも高精度な軌道情報の取得を可能とし、日本の宇宙利用における自立性と安全性の向上に貢献することを目指しています。本講演では、宇宙環境を取り巻く現状と課題、そしてレーザー技術が切り拓く新たな宇宙応用の可能性について紹介します。
京都大学で物理学分野の博士過程修了後、東京大学において宇宙物理学分野の教員を経て2009年よりJAXAへ移籍。宇宙科学研究所において、プログラム室長、JAXAチーフエンジニア等を歴任、赤外線天文衛星や金星探査機あかつき等、数多くの宇宙科学ミッションにおいて中心的役割を果たし、宇宙機関のPMとSEを取りまとめる国際委員会の議長等も務める。2016年より神戸大学で惑星科学分野の教授として宇宙人材育成のスクーリング活動を行う。2019年よりJAXA宇宙探査イノベーションハブにおいて将来の探査に向けた共同研究活動の取りまとめを行いつつ、ムーンショット型研究開発プロジェクトのPMとして、AIロボットによる月・火星での自律的生命圏構築を目指すプロジェクトを牽引。2024年には、株式会社パワーレーザーを創業に参加し取締役に就任。大阪大学特任教授、神戸大学客員教授、株式会社Letera、株式会社ispace 顧問、アークエッジスペース株式会社技術顧問等、国内宇宙ビジネスの発展に向けた活動も推進している。

15:25-16:00
レーザーによる宇宙デブリ除去
(株)Orbital Lasers 技術開発部 最高レーザー開発責任者
丸山 真幸 氏
地球周回軌道では、運用を終えた人工衛星やロケット上段、衝突・爆発により生じた破片などの宇宙デブリが増加している。これらは高速で周回しており、衛星通信、測位、気象観測など社会インフラを支える人工衛星に衝突した場合、重大な損傷や機能停止を引き起こす恐れがある。
宇宙デブリ除去では、対象物の形状や姿勢が不明であること、回転運動を伴うこと、接近・捕獲時の衝突リスクが大きいことが課題となる。弊社では、宇宙機搭載レーザー技術を中核に、軌道上遠隔からレーザーを照射して対象物の姿勢を静定化し、安全かつ効率的な除去・制御を行う技術の開発に取り組んでいる。
本技術では、高出力レーザーを対象表面に照射し、表面物質をプラズマ化・気化させるレーザーアブレーションを利用する。これにより微小な反力を発生させ、デブリの移動や回転低減を非接触で行うことができる。対象衛星側に専用アタッチメントを必要としないため、非協力物体への適用可能性が高い点も特徴である。
本講演では、宇宙デブリ問題の現状、レーザー方式の原理と利点、回転物体のデタンブリング技術、宇宙環境で求められる高出力・小型・高効率レーザーの要件について解説する。さらに、低軌道から静止軌道までを対象とした軌道上サービスへの応用や、実証・事業化に向けた課題について紹介する。海外企業との連携事例も交え、持続的な宇宙利用を支える新しいインフラとしての可能性を議論する。
2002年より物質・材料研究機構にてレーザー開発に従事。以降、ベンチャーや理化学研究所でのレーザー研究開発業務を経て、株式会社 Orbital Lasers の宇宙用レーザー開発を主導。博士(工学)。
応用物理学会講演奨励賞、レーザー学会優秀論文発表賞を受賞。文部科学省 科学技術・学術政策研究所 専門調査員、衛星地球観測コンソーシアム有識者会員、ディープラーニングコンテスト(DCON)一次審査員・アドバイザを務める。

16:00-16:35
宇宙機向けのレーザー着火
(株)IHI 技術開発本部 技術基盤センター 物理・化学技術部 主任研究員
伊澤 淳 氏
航空機やロケット、人工衛星の推進装置において、点火は機器の安全性や信頼性を左右する重要な技術である。特に宇宙分野では点火機会が限られており、一度の点火失敗がミッション全体に大きな影響を及ぼすことから、高い確実性が求められる。従来の点火方式では設置位置や運用条件に制約があるが、レーザーを利用することで、燃焼器内の任意の位置にエネルギーを集中させることが可能となり、着火性能の向上やシステム設計の自由度向上が期待されている。
本講演では、航空宇宙分野におけるレーザー着火技術の背景と意義について、従来技術との比較を交えながら分かりやすく紹介する。さらに、ガス推進系スラスタ、ロケットエンジン、航空エンジンなどを対象として進められてきたレーザー着火技術の研究事例を取り上げ、小型化・高出力化が進むレーザー技術の現状と航空宇宙機への適用可能性について解説する。
また、近年進展しているレーザー計測技術と組み合わせることで、燃焼状態を把握しながら最適なタイミングで着火を行う高度な制御技術の可能性についても紹介する。宇宙ビジネスを支える光・レーザー技術の一例として、レーザー着火技術の現状と今後の展望について概説する。
1996年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科電気工学専攻修士課程修了。2001年3月 岡山大学にて博士(工学)の学位を取得。1996年4月 石川島播磨重工業株式会社(現 株式会社IHI)入社。レーザー発振器およびレーザーセンシング技術を中心とした研究開発に従事し、産業応用に向けた技術開発を推進している。

